株式会社メディコス・ヒラタ


医療機器専門の輸入商社として知る人ぞ知る存在であるメディコスヒラタ。海外メーカーが開発した医療機器を自らの技術力で薬事承認を取得し、日本に導入することで日本の医療の質の向上に貢献するといった数少ないスタイルで、昨今ますます独自の存在力を発揮している。その存在と地位を確固たるものにしていくためには、新たな海外メーカーから最先端の医療機器を導入し、日本で使えるようにすることが大切なミッションとして掲げられた。しかし、企業間の駆け引きや、日本に新しく医療機器を導入することへのリスク対策など、乗り越えなければならないさまざまな困難が待ち構えていた。

メディコスヒラタの存在をより強固にしていく挑戦へ

営業推進グループの一員として、新規の取引先を開拓する任務に長らく携わってきたSとF。Sは脳疾患や放射線科領域で使用するインターベンション製品を扱い、Fは大動脈瘤を開腹せずに治療するステントグラフトという医療機器を扱い、たくさんの取引先と向き合ってきた。そんな2人が、海外企業との折衝を任されることは必然の流れであった。

海外や国内のメーカーから学べる商社の強みを活かす

 

100周年という節目を迎えたメディコスヒラタは、次の100年に向けて新たな挑戦への一歩を踏み出そうとしている。その中で、海外医療機器メーカーとの取引拡大が方針として示され、事業展開のキーマンとして指名されたのがSとFであった。2人は難易度の高い専門的な分野における医療機器の営業として、本社をはじめ全国の各拠点でキャリアを重ねてきた実績があった。「輸入した医療機器の良さは、自分で理解しなければ医師に勧めることなんてできない」と語るSは、これまでに海外に赴いては現地の医師やメーカーと何度も意見交換を行い、豊富な知識を有している。


Fも海外の学会や医療機器メーカーにたくさん足を運んできた。「事前情報や口コミで良いと言われている医療機器であっても、自分の目で確認しなければ信用できない。海外メーカーの工場を見学したり、実際に製品を使用する手術現場に立ち会わせてもらったりもします。新しい医療機器の導入にはコストがものすごくかかるので、ミスをする訳にはいかない」と語る声には、責任感が溢れていた。


直感を確信に変えてしまうSの緻密なデータ収集と豊富な経験則

脳疾患や放射線科領域での海外取引事業を任されたSは、競合他社の参入状況や、日本と海外では異なる医療に関するルールや時差を考えた打合せの調整も万全に行い、国内の著名な医師に面談し関連情報の強化を図ることで信頼を構築して取引を実現させていった。その次に取り掛かる必要があったのは、海外メーカーから導入した医療機器を日本の医療現場に広げていくこと。医療の現場においても、他の業界の製品と全く同じで「良いモノ=売れる」という方程式が簡単に成り立つ世界ではない。どんなに良い医療機器であっても、正しく使用してもらうことができなければ海外の臨床成績と同じ成績を日本国内で出すことはできない。


そのため、Sは医師に対して医療機器を扱うためのトレーニングが必須だと考えた。海外のメーカーや医療施設に国内の主要な医師とともに訪問し、使用手順だけでなくトラブルシューティングなども含めて医療機器を導入する前に完全に習得してもらうことを心がけた。「海外からの導入が容易な製品はヒットしない」とSは言い切る。ヒットする製品は国内に前例が少ないもの、つまり導入の難易度が高いものが多い。当然、そのような製品の導入は社内での反発も多くなる。だからこそ緻密なマーケティングが重要であり、取引先企業が持つ考えの本質を見抜くことが大切だ。数々の経験を積み実績を築き上げてきたSが「最も重要視しているのは私自身の直感です。なぜか毎回当たります」と笑う表情には、大きな自信に満ち溢れていた。

日本の医療ニーズと海外メーカーとのマッチングを図ったFの戦略

新たなステントグラフトメーカーとの海外取引を任されたFは、メディコスヒラタを売り込むためのプレゼンテーションの作成を始めた。自社の強みは何かを考え、まとめ上げたプレゼン資料を社員に見てもらうロールプレイを何度も重ねた。たくさんの人たちに意見やアドバイスをもらう中で「治験や薬事承認取得の過去の実績」「日本市場に新しい医療機器を導入して定着させたノウハウ」「大企業に対して競合優位性を保つために実行してきたプロモーション」の3点をアピール材料として売り込むことにした。しかし、それだけでは取引を実現するための熱意に欠ける。そう考えたFは、ずっと心に秘めていた想いをプレゼンに盛り込むことにした。


それは、20年前に初めて欧米の医学会でリサーチを行った際に感じたことである。日本では見たことも聞いたこともない医療機器が多種多様にあることに驚くとともに、日本にない新しい医療機器やその機器を用いた新しい治療方法をいち早く日本に導入する必要があるいう使命感に似た気持ちにもなった。そんな働きを、メディコスヒラタでいつか自分が実現するという想いである。プレゼンの結果、無事に取引を開始することができたものの、それだけではミッションは終わらない。海外と日本では医療保険制度の仕組みや、承認されている医療機器の違いなどで医療現場の環境がかなり異なる。日本のニーズに適した製品改良や使用方法の検討が重要だと考えたFは、海外メーカーとの会議やワークショップを企画したり、海外の指導医やエンジニアを日本に招いて医療現場の生の声を聴いてもらう機会を作っていった。そんな努力が実を結び、導入した医療機器を用いた初めての手術が無事に終わった際、医師から無言で握手を求められたことがFに大きな充実感と達成感を与えた。

商社として独自の姿が医療業界全体のためになる

海外の最先端の医療機器情報に強いメディコスヒラタが、自らの技術力によって薬事承認を取得し医療機器製造販売業者としての存在感を増すことができれば、日本と海外の間に生じている医療環境の差を無くすことができる。その結果、問題視されているデバイスラグ(医療機器格差)を解消することにも繋がっていく。
更には、2018年に最小径の医療用カテーテルの開発に成功したメディコスヒラタであるが、商社機能だけに止まらない企業として目指す姿はまだまだ高みにある。「海外で開発される医療機器に左右されないほど影響力のある医療機器を開発したい」とSは語気を強める。「日本のドクターと一緒に医療機器を開発できる環境をつくりたい。メディコスヒラタの経験とノウハウを活かせば、他のメーカーに負けない存在になれると信じている」とFは笑みを浮かべた。
同期入社の2人は顔を見合わせながら、互いの存在が刺激になっていると言葉を交わす。時に競い合い、時に励まし合いながら、商社でありながら医療機器製造販売業者として独自の存在感を示すこと、ここにメディコスヒラタが世界に名を轟かせる基盤が築かれている。